|
5 |
4 |
3 | 2 |
1 |
トピックス
リオの舞台裏を支えたストリンガーに聞く
2016.9.16
YONEX STRINGING TEAM中原健一氏 インタビュー
リオ五輪でストリングの張り替えを行なう中原氏。選手の要望を頭に入れながら、1本あたり15分ほどで張り上げる。「どんなラケットでも、折らずに選手に返すことが一番」(中原氏)
「選手が最高のプレーをして勝ってくれるのが、一番の喜び」
リオ五輪・バドミントン競技のオフィシャル・サプライヤーであるヨネックスは、大会会場でストリンギングサービスも行なっていた。ストリンギングサービスとは、選手が使用するラケットのストリングを張り上げる作業のこと。卓越した技術を有し、経験豊富なストリンガーが世界中から集結し、「ヨネックス・ストリンギングチーム」として活動していたのだ。このなかで唯一、日本人として加わった中原健一氏に、活動の様子を振り返ってもらった。
取材協力/バドミントン・マガジン 写真提供/中原健一、ヨネックス
700人の中からの精鋭7人
メダルを獲得した奥原希望、髙橋礼華、松友美佐紀と。最高のラケットに仕上げる中原氏に、選手からの感謝は尽きない(写真提供/中原氏)
―まず、「ヨネックス・ストリンギングチーム」について、教えてください。
中原 私のようなチームメンバーはテニス、ソフトテニスを含めると、世界に約700人いると聞いています。その中から選ばれたバドミントンのストリンガーが、ヨネックスオープンジャパンといった国際大会などに派遣されています。
―中原さんは、バドミントンでは日本人初の「五輪ストリンガー」になったんですよね。
中原 はい。バドミントンでの日本人の起用は史上初であり、海外での国際大会としても初めてとのことでした。
リオ五輪のヨネックス・ストリンギングチーム。世界トップの技術を持つ精鋭7人がヨネックス社製のマシンを使い、選手をサポートした
―リオ五輪のストリンギングチームは、どんなメンバー構成だったのですか?
中原 メンバーは7人でした。イギリス人2名、ドイツ人1名、中国人1名、ペルー人1名、アメリカ人1名、そして、日本人の私。世界選手権、全英オープン、トマス・ユーバー杯など、ビッグトーナメントを経験している精鋭ストリンガーばかりです。4大会連続で五輪に派遣されたというベテランの方もいました。
―具体的には、どんな活動をしていたのですか?
中原 選手がラケットを持ってきたら、受付用のパソコンに、選手名、ラケット、ストリングの種類、強さ、ストリンガーの名前など、さまざまなデータを入力します。そのうえで、仕上がり希望時間に合わせて張り上げていきました。
選手から持ち込まれたラケット。総数は811本、多い日で1日約100本。持ち込まれた順番に受付し、張り上げていった(写真提供/中原氏)
―作業していた場所は、どこにあったのですか?
中原 ヨネックス社は五輪のオフィシャル・サプライヤーとして唯一、会場内での作業が許されていました。私たちがストリンギングをしていたのは、メインコート3面があったフロア外側にある専用スペースです。選手の声や観客の声援がよく聞こえる中で張っていたんですよ。
―それはすごい! 作業の時間帯は、試合開始から終了までですか?
中原 まず、補足しておきますと、活動は試合が始まる前、8月1日の練習期間からスタートしました。練習でもガットは切れますからね。一番忙しい時期、練習期間の終盤から予選リーグ序盤あたりまでは、朝8時には会場に入って、夜9時半頃まで作業。一番多い時期は一日100本らい持ち込まれてきて、一人で20本以上張っていました。
―すごい数ですね! 1本あたり何分ぐらいで張り上げるのですか?
中原 選手の要望などデータを頭に入れて、平均して1本15分ほどでしょうか。リオ五輪期間中に持ち込まれたラケットは811本。私は177本張りました。
日本代表の快進撃をサポート
中原氏は日本代表のオフィシャルストリンガーも務めており、今大会でも日本人選手が使用するラケットのほとんどを担当した。金メダルを獲得した髙橋/松友をはじめとする日本勢の躍進を、陰で支えていた
―五輪は特別な舞台といいますが、苦労したことはありましたか?
中原 通常の大会では、ヨネックス社の契約選手、ヨネックス社のラケットを使用する選手をサポートします。ところが五輪は、サポートの対象が出場選手全員なんです。そうなると、他メーカーのラケットも持ち込まれてきます。
―他メーカーのラケットに、さまざまなストリングを張ることになる。
中原 はい。ラケットによっては、いつもと同じ張り方をすると、折れてしまうこともあるんです。ラケットが折れて戻ってきたら選手はショックだし、パフォーマンスにも影響するでしょう。どんなラケットでも傷つけないように、選手の要望を満たしながら張り上げる。そこはストリンガーの技術と経験のなせる技であり、それがあってこそ、選手との信頼関係が築けると思っています。
―リオでは、中原さんが日本人選手のラケットを担当したのですか?
中原 誰がどこの国の担当という形ではなく、仕上がり希望時間に合わせた順番に張り上げていました。ただ、タイミングよく日本人選手のラケットが回ってくることが多くて、ほとんど私の手で張れたと思います。
―中原さんがストリンギングチームにいて、選手も心強かったでしょうね。
中原 リオ出発直前の7月29日まで、国内合宿に11日間帯同していました。一度別れてリオで再会しましたが、日本で張り上げて渡したラケットが、飛行機内の気圧の変化でゆるんでいたんです。ゆるみが気になる選手は、会場入りしてから張り替えました。
―そんなことがあるんですね。
中原 そして、会場での練習に入ると、遠藤大由選手が「シャトルが飛ばない。重く感じる」と相談してきたんです。そこで、普段のテンション(強さ)から2ポンド落とすことにしました。
大会期間中、選手本人が作業スペースを訪れることもしばしば。マシンにサインを書いていく選手もいた(写真は中国代表の林丹)
―五輪の本番直前に2ポンドも!?
中原 いろいろ話してみて、1ポンドでは変化が感じられないだろうと思ったんです。試してもらったら「これなら、いつも通りに飛びます」と。
―リオでの快進撃(予選リーグで、五輪当時世界ランク2位のアッサン/セティアワン、同5位の洪?/柴?に勝利)に、そんな裏話があったとは…!
中原 予選リーグでの2連勝はうれしかったし、鳥肌が立ちましたね。遠藤選手は、その日の会場や調子によって、テンションを上げ下げする選手なんです。五輪の舞台でそのサポートができて、本当によかったです。外国人だけのストリンギングチームだったら、そこまでの要望は言い出せなかったでしょうから。
「最高のラケット」に仕上げる職人
中原氏の信念は「カタログ表記どおりに張り上げる」。ラケットに負担をかけない「2本張り」で、横糸を強めに張る
―あらためて、ストリンガーとしての一番の喜びを教えてください。
中原 一番は、選手が最高のプレーをして勝ってくれることです。そこに至るまでの段階として、メーカーさんが開発した素晴らしいラケットと、ストリングがある。それを組み合わせることによって、選手は初めてシャトルを打つことができるわけです。最高のラケットに仕上げるのはストリンガーの仕事。とても魅力ある立場だと思っています。
―今年のヨネックスオープンジャパンでは昨年に続き、観客から見える場所で作業するそうですね。
中原 はい。見られることで緊張感が生まれますし、何よりも、ストリンガーという存在に関心を持ってもらえることがうれしいです。
―中原さんに憧れて、ストリンガーをめざす人が出てくるかもしれません。
中原 そうなってくれたら、本当にうれしいですね。
PROFILE
なかはら・けんいち◎1979年10月生まれ、東京都出身。小平市立上水中-埼玉・小松原高-(株)ラケットショップフジ。高校時代にストリンギング・マシンと出会い、ストリンガーという立場に興味を持つ。2014年1月より、日本代表オフィシャルストリンガーに。ヨネックスオープンジャパンでは10年以上にわたり、ヨネックス・ストリンギングチームの一員として参戦している。
25日(日)、リオデジャネイロオリンピック メダル獲得報告会開催予定!
2016.9.15
大会最終日の25日(日)の試合開始前に、リオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得した髙橋・松友ペア、銅メダルを獲得した奥原希望選手が参加する、メダル獲得報告会を実施する予定です!
リオでの激闘もまだ記憶に新しいですが、メダルをかけた選手たちを見る貴重なチャンス!是非ともお楽しみに!